《労働ルールの豆知識》
見落としがちなテーマ、知っておきたいテーマなど取り上げてご紹介します。
【労働契約と就業規則 無期雇用転換ルールに関連して考える】
皆さん、もう無期雇用転換ルール対策はお済みでしょうか。
有期契約の従業員がいるにもかかわらず「何もしてないよ」という事業主の皆さま、今できることをしておきましょう。
取り急ぎ用意しなければならないものは「無期転換従業員用の就業規則」だと思います。
なぜそれを用意しなければならないのか。
その答えは、表題の「就業規則と労働契約」の関係性にあります。
《就業規則とは》
就業規則とは、常時10人以上の労働者を使用する事業場において作成届出が義務付けられているものです。
この就業規則には、始業終業の時刻や賃金など、法律で最低限記載することが義務付けられているものを含め、各企業で従業員に働いてもらうための様々なルールを規定します。
就業規則は、正社員や有期雇用者・パート・アルバイトに至るまで従業員全員に適用される内容となっていなければなりません。
ですので通常は、それぞれの勤務形態に応じて正社員用・パート用など数種類の規程を作成して、全ての従業員が、いずれかの対象となるようにしておきます。
《労働契約とは》
次に労働契約ですが、こちらは各従業員を雇い入れる際に個別に締結する労働時間や賃金などの合意事項を記載したものであり、こちらにも同様に法律で定められた最低限盛り込まなければならない項目がございます。
《就業規則と労働契約の関係》
従業員として採用されますと、労働契約と就業規則のどちらの規程も適用されることとなります。
そして、労働契約と就業規則の関係では、就業規則の方が優先されます。
労働契約法の条文では「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について、無効とする」としておりまして、無効となった労働契約のその部分は就業規則で定める水準に引き上げられることになります。
例えば、労働契約で時間外労働の賃金を「2割5分増」と定めても、就業規則で「3割増」と定めてあれば、3割増となるわけです。
《無期雇用転換ルールに関連して考えてみましょう》
無期転換した従業員は有期雇用者でなくなるのだから、今まで適用していた有期雇用者専用の就業規則は、その従業員には適用することができなくなります。
もし無期転換従業員専用の就業規則が無い場合、その従業員用の就業規則が存在しないという違法状態になってしまいます。
「でも、それなら、無期転換する従業員が出たらすぐ就業規則を作れば良いんじゃないの?」
いいえ、それでは手遅れになります。
就業規則のパターンとして、
「原則として全ての社員にこの就業規則を適用し、別段の定めがある場合は当該別段の定めを適用する」
と規定する場合があります。
ここでいう「別段の定め」とは、有期雇用者やパート従業員に対しては、正社員用とは別に用意した規程ということです。
この場合に無期転換従業員が出ましたら、その瞬間に、その従業員には正社員用の就業規則を適用しなければならなくなってしまいます。
なぜなら、「別段の定め」である無期転換従業員用の別規程が、その時点では存在していないからです。
また別のパターンとして、
「正社員とは、期間の定めのない従業員のことをいう」と
定められている場合があります。
これはモロですよね。
有期雇用から期間の定めのない無期雇用の従業員となるわけですから、その従業員は就業規則の定義上「正社員」となってしまうわけです。
そしたら、その正社員用の就業規則が適用されてしまいますね。
こうして、いったん正社員用の就業規則が適用されてしまった無期雇用者用に新たに就業規則の作成や変更をしますと、それはすなわち「正社員待遇から無期転換雇用者待遇へ」と変更するわけですから、就業規則の不利益変更ということになると判断されるおそれがあります。
従業員との合意が無いままに就業規則を不利益変更する場合には、「不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・労働者側との交渉の状況・その他などが合理的である場合に限り」、変更が認められるとされています。
ですので、後から規程を用意するというのは、結構ハードルが高いのです。
「でも無期転換する従業員とは、個別に労働契約の変更をするから大丈夫だよ。」
いいえ、大丈夫ではありません。
その従業員が有期雇用の時と同じく、例えば「週4日、1日6時間勤務」を望んでいるなら問題は発生しませんが、もしもフルタイムの正社員になることを望んでいるとしたら。
その従業員が無期転換した際に締結した「週4日勤務の労働契約」と、その従業員に適用されることになってしまう「正社員用の就業規則」、さあどちらが優先されるでしょうか。
原理原則でいうと、前で説明しましたように、正社員用の就業規則に達しない労働契約の条件は全て就業規則の内容が適用されます。
「週4日勤務」が「フルタイム」に対して「達しない」ということなのかどうかは、裁判所が個別に判断することになるのでしょうが、争いに巻き込まれることになるのは確かです。
このように、就業規則と労働契約の関係をきちんと把握していなければ大変なことになりかねませんので、今回の無期転換ルールに限らず気を付けていきましょう。
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