《労働ルールの豆知識》

見落としがちなテーマ、知っておきたいテーマなど取り上げてご紹介します。


【労働時間とは 労働時間の開始時刻について】

従業員を雇用している事業主の皆さんには、従業員の労働時間を管理する義務があります。

各従業員が何時から何時まで働いていたか、きちんと確認して記録しなければなりません。

 

労働基準法では労働させることができる時間の限度を、

・1日8時間

・1週40時間

と、定めています。

そして、皆さんご存知の「36協定」という労使間の協定を締結し労働基準監督署に届け出ることによって、上記の労働時間数を延長することが可能となります。

現状では36協定の内容次第で労働時間を実質無制限にすることが可能なため、大きな問題となっています。

なので働き方改革のテーマのひとつである、「罰則付き長時間労働の上限規制」という形で、法改正が予定されることとなりました。

 

改正される内容については後日改めることとしまして、では、その肝心の労働時間とはどのような時間帯のことなのでしょうか。

 

「そりゃあ、仕事している時間でしょ。何時から何時までって就業規則に書いてあるじゃない。」

 

必ずしもそうではないところが怖いところです。

判例では労働時間について、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と示しています。

小難しく言いますと「時間的・場所的・行動上・業務遂行上・支配的」な拘束下にある、という5つを全て満たしている時間、ということです。

 

はぁ??要するに何がどうなると「指揮命令下」に置いたことになるのよ?

 

というわけで、まず本日は労働時間の開始時刻について考えてみましょう。

労働時間の開始時刻については就業規則や労働契約により、法に違反しない範囲で自由に定めることができます。基本的には、作業や業務を開始する時刻が労働時間の開始時刻ですよね。

そこで、こんな判例を紹介します。

 

最判平12年『三菱重工長崎造船所事件』

「作業服及び保護具等を装着するよう義務付けられ、右装着を所定の更衣所、控え所又は現場控え所において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就労を拒絶されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった」という状況下における、作業服などの装着に要する時間等は、「指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる場合に限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。」

 

また昨年10月には、「警備会社の従業員が制服に着替える時間と引継ぎの朝礼の時間は労働時間」との労基署の是正勧告が出される事例も発生しています。

 

要するに「作業服に着替える時間は労働時間だ」と言っています。

 

「え!ウチの会社の従業員も作業服に着替えさせてるよ!?」

 

前出の判例の前半には、労働時間となる条件が示されています。

その会社は、作業服等の装着が義務付けられ、着替える場所も指定され、しかも守らなければ懲戒処分となる、というルールがあったわけです。

つまるところ、従業員の行動に対しそれほどの制限をかけているのだから「指揮命令下に置いた」ということなのですね。

 

じゃあ、そこまで締め付けていないならば「労働時間ではない」ということなのか?

 

別の判例では、着替えなどの時間が会社の指示であっても、それはあくまでも従業員の安全確保のためにとった使用者の便宜的措置であることを考慮すれば、労働時間には含まれない、としています。

朝の就業時間開始前に行なわれる、体操や掃除なども同様に扱われると考えられます。

 

まとめますと、

・場所や行為を会社が義務付けていれば労働時間

・場所や行為を会社が義務付けず自由参加であれば労働時間でない

 

労働時間と認定されてしまうと、過去にさかのぼり賃金の未払い分として大金を用意しなければなりませんから気を付けましょう。


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