《労働ルールの豆知識》
見落としがちなテーマ、知っておきたいテーマなど取り上げてご紹介します。
【過労死・過労自殺について】(平成30年8月記事)
《過労死等の労災補償状況》
先日、厚生労働省は、過労死等の労災補償状況を公表しました。
それによりますと、
平成29年度に過労死と過労自殺(未遂含む)により労災補償決定された件数は190件でした。
内訳は、
脳・心臓疾患による過労死:92件(前年度比15件減)
過労自殺・未遂件数:98件(前年度比17件増)
でした。
過労死件数は減ったものの、過労自殺件数が増加しています。
年齢別にみますと、
過労死:40代と50代が多い
過労自殺:30代と40代が多い
また、時間外労働の長さ別にみますと、
過労死:「80時間~100時間」「100時間~120時間」が多い
過労自殺:「100~120時間」「160時間以上」が多い
となっていました。
80時間超で過労死の危険が高まり、100時間超で過労自殺の危険が高まる、ということですね。
《労働者災害補償保険法上の定義》
この「労働者災害補償保険」とは、いわゆる労災保険のことです。
従業員を1人でも使用する事業主は、それがたとえ週1日だけの従業員であっても、
労災保険に加入しなければなりません。
従業員が仕事中に直接その仕事が原因でケガをした場合などは、保険金支給の対象として分かりやすいのですが、
病気になった場合や病気で亡くなった場合などは、仕事との因果関係が今ひとつはっきりしません。
そこで、労災保険では業務に伴う具体的な疾病の原因と種類を例示列挙しています(労働基準法施行規則)。
つまり、一定の業務に就いていた従業員が例示された疾病を発症した場合は、仕事との因果関係を推定し、
反証のないかぎり業務上の疾病として取り扱う、ということになっているのです。
そして、脳血管疾患・心臓疾患による過労死や過労自殺にも認定基準があります。
《過労死の認定》
具体的には、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」になります。
1、異常な出来事に遭遇
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
重大な事故に直接関与するなど、極度の緊張、恐怖、驚がくなど、
・精神的負荷・身体的負荷・作業環境の変化、などが該当します。
2、短期間の過重業務
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと
発症前概ね1週間の間に、
・過度の長時間労働・継続した長時間労働・休日が確保されていない、などが該当します。
3、長期間の過重業務
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
これは広く知られていますね。
・単月で概ね100時間超
・2~6ヵ月にわたり1ヵ月あたり概ね80時間超
・6ヵ月にわたり1ヵ月あたり概ね45時間超
これらの時間外労働を行なった従業員の発症について、業務と発症の関連性が強いと評価できる、としています。
「2、短期間の過重業務」および「3、長期間の過重業務」については、労働時間以外の負荷要因も含めて判断されます。
《過労自殺の認定》
具体的には「心理的負担による精神障害の認定基準」になります。
つまり、業務による心理的負荷によって精神障害を発病したと認められる人が自殺を図った場合、
労災認定されるということです。
ここでは、発病前の概ね6ヵ月間に業務によって、「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合、心理的負荷の総合評価を「強」とします。
すなわち、関連性が高まるというわけです。
この「特別な出来事」には、
・生死にかかわる極度の苦痛を伴う業務上の病気やケガをした
・業務に関連して、他人を死亡させたり生死にかかわる重大なケガを負わせた
などが該当します。
また、「特別な出来事」には、極度の長時間労働も該当します。
・発病直前の1ヵ月間に概ね160時間超または同程度(3週間に120時間超など)
・発病直前の2ヵ月間連続して1ヵ月あたり概ね120時間以上
・発病直前の3ヵ月間連続して1ヵ月あたり概ね100時間以上
これらの時間外労働を行なった従業員が発病した場合、心理負荷の強度を「強」と判断する、というわけです。
《まとめ》
平成29年度は、この過労死・過労自殺(未遂含む)が、実に190件です。
この数字の単位は「件」とされていますが、つまり人数です。
これだけの人が働き過ぎで亡くなっているという事実を重く受け止めなければなりませんし、
まだまだ表に出てきていない事案もあることと思います。
皆さんも認識しているとおり、
過労死・過労自殺には労働時間の長さが強く関係しています。
1ヵ月あたり80時間の時間外労働を「過労死ライン」と呼んでいますが、
これは、1日あたり12時間くらいの労働時間になります。
休憩1時間をはさんで合計13時間を会社に拘束され、
もし、郊外から片道1時間半かけて通勤していたら・・・・、
1日24時間のうち16時間を仕事関係に費やしていることになります。
これでは、身体の調子も悪くなります。
二度と悲しい事件を起こさないため、経営者の皆さまには、
従業員の体調には注意をしていただきたいと思います。
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