《労働ルールの豆知識》
見落としがちなテーマ、知っておきたいテーマなど取り上げてご紹介します。
【非正規雇用者の賃金格差について最高裁判決】
2つの基本となる最高裁判決が あります。
いずれも非正規雇用者と正社員間の賃金の格差についての判断であり、
『長沢運輸訴訟』と『ハマキョウレックス訴訟』です。
主な争点は、
前者は、60歳で定年を迎えた従業員を嘱託社員として再雇用した場合における正社員時の賃金からの減額についての争い、
後者は、正社員と契約社員間の諸手当の格差についての争い、
であります。
労働契約法20条では、
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、
期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、
当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」)、
当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
と、定められています。
くどい条文ですので噛み砕きますと、要するに、
「有期契約の従業員と正社員との間に賃金格差がある場合は、
・業務の内容や責任の程度
・職務内容・配置の変更範囲
・その他の事情
を考慮して不合理でないようにしなさい。」
というわけであります。
では、それを踏まえて、まず『長沢運輸訴訟』をみてみましょう。
《長沢運輸訴訟》
冒頭で申し上げましたように、ここでは定年後再雇用時の賃金減額について争っています。
ポイントは以下のとおり。
原告である従業員は、
・60歳定年までの正社員としての仕事内容と定年後再雇用時の仕事内容が全く同じ
・正社員時と比べ、再雇用後嘱託社員時の年収は2割~3割程度減額した
賃金体系全体の格差について争った本件の場合、
労契法の不合理性をはかる3つの判断要素のうち、「業務の内容や責任の程度」と「職務内容・配置の変更範囲」は同じでした。
そして、「その他の事情」として、定年後再雇用の従業員は、
・長期雇用が予定されていない
・定年退職前は正社員として賃金を受けてきた
・一定の条件のもとで年金受給が予定される
など、定年前正社員との違いを指摘したものであります。
判決では、賃金項目ごとの趣旨により、その考慮すべき事情や考慮の仕方が異なりうるとして、各項目を個別に判断すべき、としています。
本件では、具体的には以下のとおり。
非正規社員と正社員間で格差があったとしても、
・能率給・・・・不合理ではない
・職務給・・・・不合理ではない
・精勤手当・・・不合理
・住宅手当・・・不合理ではない
・家族手当・・・不合理ではない
・役付手当・・・不合理ではない
・超勤手当・・・不合理
・賞与・・・・・不合理ではない
続きまして、『ハマキョウレックス訴訟』をみます。
《ハマキョウレックス訴訟》
こちらは、原告が各手当についての格差について争い、以下の判断となりました。
・無事故手当・・・不合理
・作業手当・・・・不合理
・給食手当・・・・不合理
・住宅手当・・・・不合理ではない
・皆勤手当・・・・不合理
・通勤手当・・・・不合理
大阪高裁で無事故・作業・給食・通勤の各手当について不合理とした判決を支持し、さらに、皆勤手当の不支給について不合理とし、
原告の主張が大部分で認められたものとなりました。
《企業に求められる対応》
今回の判決では、各種手当について、法の趣旨に基づいて個別に判断し同一のものとすべき、としていますが、
基本給部分については、正社員と非正規雇用者間の基本的な違いを取り上げ、
また、会社が非正規雇用者の収入の安定に配慮している点など、総合考慮することで不合理とはいえない、としています。
働き方改革に伴う同一労働同一賃金では「均等」もしくは「均衡」を求めており、非正規雇用者と正社員の間の賃金格差については、企業に説明義務が求められます。
全国的な格差訴訟に発展した日本郵便では、正社員に支給されていた一部手当を段階的廃止にすることで、格差是正を図ることとしました。
このように正社員の待遇を引き下げて対応する企業は異例ですが、各企業は賃金体系や諸手当の検討と見直しが求められ、説明がつかないものについては控えるように改めていかなければならないでしょう。
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